Nippoku Style | 大学に入ったら あちこちに行ってみたいよね
 
 現在3年生は自宅学習期間ですが、今日はその3年生の登校日でした。
 自宅学習期間といっても、本校では多くの3年生が学校で勉強しているので、普段から職員室や廊下で姿を多く見かけますが、さすがに全員が揃うといいものです。
 その3年生の中に、職員室で質問の順番待ちをしている間にこんなことを話している者がいました。「大学に入ったら、あちこちに行ってみたいよね。」
 その話を聞き、「そうだよなぁ。自分も学生時代に、あちこち行ったなぁ。」と自分の学生時代が懐かしくなりました。学生は社会人と違い、お金はなくても時間はたくさんあります。そのたくさんある時間をどう使うかは、それぞれの考え方次第ですが、私は卒業生達にいつも「時間があったら本を読み、旅に出ろ」と言い続けてきました。
 その思いを、ホームルーム通信に書いたことがあります。1996年2月28日に書いた「菜の花畑を前にして」です。
 国立大学の入学試験が25日から始まったが、来年、みんなはどういう生活を送っているだろうか?国立大学が入学試験なので、当然のことながら大学生は春休みだ。本校の卒業生達も大分実家に戻ってきているようで、学校にも何人かが遊びにきた。
 
 いま、自分の春休みを振り返ってみると、旅行していた想い出しかなく、その中でも九州を始めて旅したことが一番強く印象に残っている。
 
 大学1年生の春だったが、東京から寝台列車で九州に入り、博多→大分→宮崎→鹿児島→人吉→熊本→島原→柳川→佐賀→長崎→平戸→博多と、約10日間かけて一周したことがある。当時は国鉄(現在のJR)の運賃も比較的安く、九州一周の1か月有効の周遊券(九州内乗り放題)が9,900円、ユースホステルが1泊2食付きで、たしか700円だったと記憶している。だから、10日間旅行をしても3万円あれば十分だった。
 
 まず、寝台列車から見た朝靄の中の瀬戸内海に感動した。寝不足でショボショボする目で見た瀬戸内海は、実に幻想的な世界だった。その世界を見たさに、私はその後も何回か、明け方の瀬戸内海に通った
 
 宮崎の日南海岸の海の青さにも驚いた。サボテン公園の小高い丘の上から見た太平洋の青さは、日立の海の青さとは比較にならないほど「青」かった。「ぐんじょう色」とは、きっとこんな色を言うのだろうと思ったりもした。
 
 鹿児島では桜島の雄大さに圧倒されたが、桜島の降灰の影響を身をもって体験し、自然の力の凄さを感じた。
 
 人吉では、山間の集落やそこに住む人々の生活を見て、都会にいながら「自然保護」や「開発反対」を叫んでいることの無責任さを痛感した
 
 熊本の水前寺公園では、生まれて初めて「笑い袋」なるものを知り、「なんだコレ?」と思った。
 
 しかし一番印象深かったのは、なんと言っても北原白秋の生家がある柳川に行くため、「瀬高」という所にあるユースホステルに泊まった時のことだ。そこは江戸時代の武家屋敷をユースホステルに改造したもので、2階が宿泊場所だった。2階と言っても、まっすぐ立つと天井に頭がぶつかってしまうような高さしかなく、窓には木でつくられた格子があり、江戸時代の人はここから外を眺めていたんだなと妙に感心した。当時のユースホステルは、自分で食べた食器は自分たちで洗うのが原則で、初めて会った見ず知らずの人たちが男女関係なく、互いの食器を洗いあっていた。その中で自然に会話が生まれ、夜のミーティングへと雰囲気が自然にできあがっていくのだ。
 
 その食器洗いの時、隣で洗っていた人から「近くの川の土手に、菜の花がたくさん咲いていてとてもきれいだ」ということを教えてもらった。
 
 翌日、ユースホステルから歩いて10分位の河川敷まで、ブラブラと散歩がてら出かけてみた。言われた場所は道路から少し高い堤防になっており、堤防には上に出られるように階段状の道ができていた。その道を上り堤防の上に出た途端びっくりした。堤防の内側が、つまり河川敷が一面の菜の花畑で、「うわぁー!菜の花だー!」という世界だった。
 
 視界の下半分は“真っ黄色”、上半分は春霞のかかった水色の空、何とも言えない雰囲気だった。理由はないが無性にうれしくなり、堤防の土手に座り込んでしばらくボーッとして時を過ごした。別に何かを考えていたわけではなかったが、黄色と水色の真ん中で、遠くからきこえてくるヒバリのさえずりを聞き、春独特のあの甘いにおいを含んだゆるやかな風を肌で感じながら、1時間位その場にいただろうか。そのとき以来、あんなにすごい菜の花畑にはその後出会ったことがない。それほど、私にとっては春の貴重な体験だった。
 
 私は大学生の頃、四国以外のいろいろな場所を訪れた。学生なので金銭的には苦しい旅だったが、一人で旅をすることで多くのことを体験できたと思う。列車の中に財布を忘れて困ったこともあった。たまたま前の座席に座った地元の人の家に泊めてもらったこともあった。酔っぱらいにからまれたこともあった。夏の暑いとき、24時間以上もエアコンの効かない列車に乗り続けたこともあった。グループで旅行したのではとても体験できないことばかりで、今となってはいい想い出だ。
 
 一人で旅をすることは、自分を見つめ直すいい機会だと思う。みんなも大学生になったら、日本だけでなく世界中を旅して様々な体験をしてみてほしい。学生時代にしかできない旅を、是非してほしい。
 本校の生徒達を見ていても、自分では気付かないかもしれませんが、みんな素晴らしい可能性を秘めていることは間違いありません。その可能性に気付いたり、開花させるためにも、「大学に入ったら、あちこちに行ってみたいよね。」という気持ちを持ち続けてほしいと思います。


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